念願の乗り入れ実現へ! 中国高速鉄道香港開業に伴うダイヤ改正(2018年9月23日) 香港高鐵直撃

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港鉄は8月23日、プレスリリースにて9月23日に香港に中国高速鉄道を乗り入れると公表した( 港鐵公司營運高速鐵路將於二零一八年九月二十三日投入服務 )。今回はこのうち、香港西九龍~福田・深圳北間の短距離列車について見ていく。

1. 香港初の高速鉄道開業

今回の2018年9月23日港鉄ダイヤ改正では、中国高速鉄道の香港乗り入れを実施する。

今回開業されるのは広深港高速線の福田〜香港西九龍間の32km、1駅間で、32kmのうち北側6kmは広東省内で中国鉄路の管轄となり、南側26kmは香港特別行政区内となり港鉄の管轄となる。広深港高速線福田〜香港西九龍間の最高速度は200km/hで、既存の広州南〜福田間300km/hより低く設定されている。

今回の広深港高速線延伸に合わせ、港鉄では和諧号(300km/h対応)と共通設計の高速車両である動感号を9編成導入することとなった。動感号は8両編成で、両端の1号車と8号車は一等車で計61席、2号車~7号車は二等車で511席、合計572席を用意している。料金表には特等車やビジネスクラスの料金も掲載されているが、この2クラスは中国鉄路による16両編成の復興号にて運転される列車のみに適用される。ただ香港には高速列車のノウハウがないため、車両は香港鉄路が保有しているが、メンテナンスは中国鉄路広州鉄路局で行われる。横浜高速鉄道みなとみらい線・こどもの国線の車両を東急電鉄で保守している事例はあるが、香港は中華人民共和国内の一地域とはいえ特別行政を行っていることから出入境管理を行っている。他国に車両保守を任せている例はあまりないと思われ、まれなケースであると思われる。




今回の中国高速鉄道香港乗り入れに合わせ、香港特別行政区内に香港西九龍駅を開業する。立地は香港MTR東涌線および空港快速線九龍駅の東側に隣接し、徒歩8分で乗り換えられるほか、香港MTR西鉄線柯士甸駅の西側に隣接し徒歩2分で乗り換えが可能となる。駅構造としては開業時点で16両対応が3線と8両対応が4線となっているが、将来的には16両対応が5線、8両対応が6線まで拡張可能な構造となっている。それぞれの線路の両側にホームを設置し、片側を乗車専用ホーム、反対側を降車専用ホームとして乗降分離させることで、出入境管理を行う。また香港西九龍駅では香港特別行政区の出入境を行うほか、中華人民共和国内地の出入境も行う。これにより、現在北京発着や上海発着の直達特快のような中華人民共和国内地側の出入境を乗降駅で行なっていたことから出入境を行なっていない駅からは乗降車できないが、出入境を全て香港西九龍駅で完結できるようになり、中華人民共和国内地側はどの停車駅からでも香港まで利用できるようになった。

これにより中国国鉄直通列車から香港中心部の香港駅(または中環駅)に行くには、在来線しかない今日では紅磡(九龍)駅に到着後香港MTR西鉄線に乗り換え1駅隣の尖東に行き、尖沙咀まで10分ほど歩いた上で香港MTR荃湾線で2駅乗り終点の中環駅にたどり着くため約20分かかるが、今回の中国高速鉄道香港乗り入れにより中国鉄路直通列車が香港西九龍発着となることから、隣接する九龍駅より香港MTR東涌線を利用することができるようになり、たった1駅5分で香港駅に到着できるようになる。また中国鉄路からこれまでの起終点だった紅磡(九龍)駅に向かうためには、西九龍駅の東に隣接した柯士甸駅から香港MTR西鉄線に乗車し、2駅6分で到着することができる。2021年には香港MTR東鉄線が延伸して紅磡~金鐘まで延伸するため香港中心部に近くなるが、香港特別行政区内の利便性からして現在の紅磡(九龍)駅より香港西九龍駅の方が利便性は高いものと思われる。

中国鉄路では高速列車CRHにおいて荷物検査を乗車前に駅で実施しているため、発車5分前までに改札を通らなければならない。しかし香港西九龍駅では改札通過後に出入境審査を行うため、列車発車の45分前までに改札を通らなければならない。出入境検査を行う高速列車としてほかにイギリス~フランス・ベルギーなどを走行する「ユーロスター」があるが、こちらは乗車する駅で出国審査と入国審査を両方行うが、チェックインは列車発車の30分前で構わないほか、最上級のビジネスプレミア座席の場合は10分前のチェックインで構わないという。そうなると、荷物検査があるとはいえ45分前では早いように感じる。できるだけ列車を遅延したくないということなのだろうか。今回運転される高速列車は、ビジネスクラス、特等車、一等車、二等車の4クラスであるから、ユーロスターのように座席のグレードに合わせて入場する時間をできるだけ遅くできるようにするシステムを導入してもいいと思うのだが、社会主義体制の中華人民共和国に直通する列車を相手にどこまでできるかは見ものだ。




現在は中国鉄路広九線及び香港MTR東鉄線広州東~九龍(紅磡)間で城際直達列車が運転されているが、1998年に香港の当時の九広鉄路が香港MTR東涌線に九龍駅を設置したことにより東鉄線九龍駅を本来の地区名称となる紅磡駅に改称するも、大陸の中国鉄路側は九龍駅のまま呼称している。しかし今回の香港への中国高速鉄道乗り入れにより香港MTR東鉄線紅磡(九龍)駅より3kmほど西側の、香港MTR東涌線および空港快速線九龍駅の東側に隣接し、西鉄線柯士甸駅の西隣の西九龍駅に移設されることになり、文字通り九龍地区に駅を設置することとなった。
このように歴史を追えば東鉄線紅磡(九龍)駅が西に移設したから西九龍駅なのだとわかるが、香港側の路線案内のみ見るとまるで京急電鉄の品川駅より南にある北品川駅のように、九龍駅の東隣に西九龍駅が設置されることとなる。

ただ疑問が湧く。1つはなぜ今回の中国高速鉄道新駅名称が香港北駅ではなく香港西九龍駅なのか。中国鉄路では急ピッチで高速鉄道網を整備しているが、駅名は都市名+方角であることがほとんどだ。これは都市名だけでは既存の在来線駅と同一になっていることから後ろに方角をつけているものである。例外として上海虹橋駅が挙げられるが(本来なら上海東駅でもいいはず)、こちらもただ虹橋駅では通じないため上海を冠している。香港は広東語圏内なので普通話(北京語)とやや語順が異なるが、それでも駅名の付け方は旺角東や荃湾西などとなっており地名+方角であることに変わりない。

またもう1つはなぜ九龍を使い続けるのか。1910年に九広線が開業した際の終点が九龍駅で知名度が高いことが挙げられるが、これは香港島にはなくユーラシア大陸の九龍半島の南端にあったことに由来する。今回も中国高速鉄道の香港乗り入れの実現としているが、厳密には香港特別行政区への乗り入れであり香港島乗り入れではない。対して香港MTR東涌線や空港快速線の起点である香港駅は香港島にあり、徒歩連絡できる中環駅と合わせて香港特別行政区の中心地となっている。その1駅北にあるので香港北駅でもいいのではないかと思うのだが、中国国内での九龍が、日本でいう東北・北陸地方における上野、山梨県や長野県南部における新宿並みに有名であるからではないだろうか。そのため香港特別行政区内であることをわかりやすくするために香港を頭につけ、香港西九龍駅としたのであろう。




2. 運転本数はどうなる

今回の2018年9月23日港鉄ダイヤ改正では、中国高速鉄道が香港に乗り入れるようになる。

香港西九龍駅に乗り入れる定期列車は88往復となり、そのうち75往復が広深港高速線内で完結、残り13往復がさらに遠方の14都市へ向かい、合計44の高速鉄道駅に向かう。

広深港高速線内運転75往復のうち、福田発着定期列車23往復(そのほか臨時列車38往復)と深圳北22往復(そのほか臨時列車1往復)が設定され、広州南発着が30往復設定された。ただ、香港西九龍~深圳北間の列車は朝の香港西九龍7時13分発深圳北行きG5710列車(中国国鉄復興号16両編成)と深圳北19時37分発香港西九龍行きG5707列車(中国国鉄復興号16両編成)を除き全て福田を通過するほか、広州南発着列車も30往復中香港西九龍行き6本と広州南行き8本しか停車しない。そのほか長距離列車で潮仙発着の1往復が停車することから深圳市中心部に位置する福田に停車する香港西九龍方面の高速列車は、定期便で福田→香港西九龍が31本、香港西九龍→福田が33本となっている。

車両運用について見ていくと、福田発着は全便港鉄動感号8両編成での運転となっているが、深圳北発着は定期列車22往復中16往復が港鉄動感号8両編成での運転で、残り6往復は中国鉄路復興号16両編成の運転となっている。臨時列車については全て港鉄動感号8両編成による運転となっている。

なお、乗務員に関しては福田での交代は行わず、車両の所属する鉄道会社と同じ会社の乗務員が全区間で乗務することとなった。香港西九龍発着のCRHは全てG列車(高速列車)として運転されているが、広深港高速線内完結列車、特に香港西九龍~福田・深圳北間シャトル列車は実質C列車(城際列車)のようなものだろう。




3. 移動時間が大幅短縮に

とはいえ、高速鉄道前の現状は香港~深圳間をどのように移動しているのだろうか。

香港~深圳間の鉄道輸送量は、2017年時点で東鉄線羅湖経由が22万3858人/日、東鉄線支線落馬洲経由が16万2915人/日、九龍(紅磡)からの九広直通列車利用が1万0564人/日となっている。これらの数字は上下線合わせた数なので片道辺りはこの半分になるが、この香港〜深圳間の1日当たりの入出境はJR西日本のJR神戸線大阪~神戸間の輸送密度に匹敵しているほか、羅湖経由のみでもJR東日本の横浜線に匹敵する輸送量を持つ。そんな莫大な需要に支えられていることもあって、香港MTR東鉄線は終日12両固定編成で運転され、昼間は羅湖発着・落馬洲発着合わせて平均3分30秒~4分間隔で運転されている。ただ香港MTR東鉄線の運転本数は平日朝ラッシュ時や早朝深夜の落馬洲口岸閉鎖時間帯を除き概ね羅湖発着2本につき落馬洲発着1本の運転となっているため、羅湖の方が利便チャンスが多い。

深圳市中心部の駅は深圳地下鉄2号線および港鉄深圳の地下鉄4号線市民中心駅であり、香港から向かうには紅磡(九龍)から香港MTR東鉄線を利用し45分乗車し、羅湖で中華人民共和国内地に徒歩連絡し、地下鉄1号線羅湖駅から大劇院で地下鉄2号線に乗り換え、深圳市内7.9km、15分かけて移動するか、紅磡(九龍)から香港MTR東鉄線を利用し49分乗車したのち、落馬洲で中華人民共和国内地に徒歩連絡し、福田口岸から地下鉄4号線を利用し3.2km、5分かけて市民中心に向かう方法があるが、いずれにしても出入境にかかる時間を除いても55分~1時間以上かかる。




今回のダイヤ改正より香港西九龍発着の高速列車が乗り入れるようになる広深港高速線福田駅も深圳市中心部にあることから、深圳市中心部と香港中心部を結ぶのにもってこいだ。この福田駅の設置個所も立地が考慮されており、地下鉄では深圳市の中心部は市民中心駅であるが、地下鉄2号線で西隣の福田駅が、地下鉄各線の福田駅と比べて東寄りにあることに着目し、地下鉄2号線の福田駅の東端に交差するように広深港高速線福田駅を設置した。これにより広深港高速線福田駅から深圳市中心部までおよそ800mもない立地に駅を建設することができ、中国高速鉄道の省級・副省級・省都駅としては一番市中心部に近い駅となっている。

そんな香港西九龍~福田間の所要時間は最速14分で、遅くとも15分で到着してしまう。香港の中心部香港駅や中環駅からの所要時間で比較しても概ね40分短縮されるようになるほか、乗り換え回数が3回から1回に減らせることもメリットだ。それを考えると利便性は非常に高い。ただし、香港MTR東鉄線は羅湖発着が昼間でも平均6分間隔(毎時10本)、落馬洲発着が12分間隔(毎時5本)であるのに対し、福田停車の高速列車は1時間に1~2本の運転しかない。

なお、香港西九龍~深圳北間も最速18分で結ぶほか、多くの列車で19分で結ぶ。一部福田停車の広州東・潮仙発着列車に関しては24~25分で運転されるものもあるが、それでも早い。香港西九龍~深圳北間の高速列車は1時間に3~5本運転されているので、すぐ利用できるのもメリットの一つであろうが、深圳北駅から市民中心駅まで8.3km、12分、4人民元かかり、かつ高速列車代だけでも二等車で6人民元追加でかかることを考えると、福田停車の高速列車が運転される時間帯はできれば福田駅を使いたいだろうし、香港MTR東鉄線との所要時間のアドバンテージが40分から20分程度にまで減ってしまう。ともなると、乗車チャンスの面では従来の港鉄MTR東鉄線経由の方が利便性が高そうだ。




4. 初終列車はどうなる

初終列車について見ていくと、香港西九龍~福田間では、北行きの初列車は香港西九龍7時13分発深圳北行きG5710列車(中国鉄路復興号16両編成)、終列車は香港西九龍20時23分発広州南行きG6538列車(中国鉄路復興号16両編成)となっている。南行きの初列車は福田8時45分発香港西九龍行きG5813列車、終列車は福田19時47分発香港西九龍行きG5707列車となっている。福田発着は初終列車が早いが、繁忙期には臨時列車が設定され、初電繰り上げや終電繰り下げを実施する。

対して香港西九龍~深圳北間で見ていくと、北行きの初列車は香港西九龍7時00分発深圳北行きG5736列車、終列車は香港西九龍22時50分発広州南行きG6504列車となっている。南行きの初列車は深圳北6時44分発香港西九龍行きG5711列車、終列車は深圳北22時36分発香港西九龍行きG6387列車となっている。高速列車の初終列車のみをみるに、深圳市中心部の福田発着より深圳北発着の方が利用可能時間帯が広くなっている。




現在の港鉄MTR東鉄線の初電が、北行きは紅磡5時30分発羅湖行きと紅磡5時35分発落馬洲行き、南行きは羅湖5時55分発紅磡行きと落馬洲6時38分発紅磡行き、終電が紅磡23時07分発羅湖行きと紅磡21時35分発落馬洲行き、南行きは羅湖24時30分発紅磡行きと落馬洲22時55分発紅磡行きとなっている。このことからして、東鉄線より値段の張る高速列車は早朝・深夜には利用が少ないと考えられ、運転が設定されなかったものと思われる。早朝・深夜の移動は従来通り東鉄線に頼るようだ。

ちなみに、今回のダイヤ改正では香港MTR東鉄線の減便は実施されない。これは、2021年の東鉄線紅磡~金鐘間延伸の伴う香港島乗り入れ開始に伴いホーム有効長を制限するためで、現在の12両編成(うち1両頭等車)から9両編成(うち1両頭等車)に短縮される。高速列車に流れる分は減車で対応し、利用チャンスを減らさないようにする見込みとなっている。




5. 料金はどうなる

さて今回2018年9月23日ダイヤ改正で開業する広深港高速線の料金はどうなっているのだろうか。

香港西九龍~福田間では二等車で78香港ドルまたは68人民元(約1,120日本円)、香港西九龍~深圳北間では二等車で86香港ドルまたは75人民元(約1,230日本円)となっている。

現在の港鉄MTR東鉄線では紅磡~羅湖・落馬洲間は39.2香港ドルかかるほか、香港中心部~深圳市中心部の移動を考えると、姑息鉄道経由では香港駅~九龍まで10香港ドル(約140日本円)かかることから二等車利用で88香港ドル(約1,260日本円)、港鉄MTR東鉄線利用では中環~羅湖・落馬洲まで49香港ドル(約700日本円)、落馬洲~市民中心まで2人民元(約33日本円)、羅湖~市民中心まで3人民元(約50日本円)であることを考えると、片道733日本円程で移動できる。このことから、高速鉄道利用の際の差額は約530日本円程となる。530円で40分所要時間が短縮し、乗り換え回数が3回から1回に減り、かつ出入境検査も時間のかかる羅湖口岸を避けられるメリットもある。ともなれば香港~深圳間の移動に高速列車を使うのはお買い得ではないだろうか。

ただ、先述したように福田停車の高速列車は少なく、深圳北発着を利用せざるを得ない時間帯もある。そうなると新s年市中心部まで10人民元(約160日本円)値上がりするので、港鉄MTR東鉄線利用と比較すると700円程値上がりしてしまう。先述したように所要時間短縮効果も25分となることから、あまりお得とは言えないだろう。

なお、料金については人民元をベースに設定されており、香港ドルによる発売額は為替変動により毎月変動する。その月の香港ドル料金はその月の初日にならないと分からず、香港ドルによる発売額は購入時点での額が有効となる。


6. 結び

今回の2018年9月23日港鉄ダイヤ改正では、中国高速鉄道の香港乗り入れを実施することとなった。香港側・深圳側共に現状より市中心部に近い位置に駅を設置できることとなり、香港~深圳間は短距離ゆえ多くの高速列車を運転し、香港西九龍~福田間でも毎時1~2本設定されることとなった。これにより香港MTR東鉄線の特に頭等車利用率が下がる可能性は否めず、近い将来減車が予定されている。一方毎時1~2本高速列車が設定されるとはいえ、福田通過列車が過半数を超えている現状ではまだまだ利便性を向上させる余地はあるものと思われる。

今後香港発着の高速列車がどのように発展していくのか、それに伴い在来の港鉄MTR各線はどのように変化するのか、見守ってゆきたい。

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